エニックス「ドラゴンクエスト」モンスター名の由来出典推察

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すこし読めばわかると思いますが、そう深い考察があるのでもなく真面目に資料をあさったわけでもありません。 これまで見聞きした知識と手元にある資料、それに近年ネット検索で得た情報をくわえてまとめた程度の物です。 裏のとれていない物も相当あります。「参考」くらいにお考えください

このページで「これだ」と書いてあるのは筆者であるMAZが「これだ」と思うだけの事であって 必ずしも真実ではありません。 ここでいう真実とは何か? それはドラクエのスタッフが「この名前はこういう理由でつけました」と明言した事柄、そのひとつ限りです。 僕がおこなったのは自分なりの情報選択とそれにもとづく「推察」にすぎず、 言い方をかえればここに真実はないのであります。 どうかこの事を念頭において、ゆめゆめ情報に一人歩きをさせないようお願いします

※モンスター名のうしろの()は海外版DRAGONWORRIORでの名称。 ついていたりいなかったりするのは筆者の便宜のためで特に意図はない


2012/03/24 だいぶ量がふえてきたので分散させました

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海外版モンスター名はあてずっぽう
名前の由来をさぐるのにはじめは海外版の英訳も参考にしていたのだが、 首をかしげるケースがすくなくなかったので 下にごく簡単な例をならべ、スペルを比較する事によって 国内版と海外版の間で連絡がとれていない事をあきらかにする

国内版名 海外版名 正しいスペル
マーマン Merzon Merman
Merzonとはなんだろう
アンドレアル Anderoug Andrealphus
Anderougはなんの事やらサッパリ
エレフローパー Elefrover Eleph-roper?
英訳者はroperを知らなかったか
マッドルーパー Rabid Roover Mud rooper?
外見からしてウーパールーパーにちがいないのだがつづりはroover
ブームから年数はたっているが、まさか知らなかったのだろうか?
これも濁音と半濁音のとりちがえ
カロン Karon Charon
カタカナから類推した誤スペルの典型
バアラック Bharack Valak
すべての子音があやまり。まるであてずっぽうのようだ
サブナック Savnuck Sabnak
ダークドリアード Dark Doriard Dark dryad
ハンババ Hambalba Humbaba
これらも類推によるデタラメ。特にドリアードはヒドイ
バラクーダ Balakooda Barracouta,Barracoota,Barracuda
にっくきSeagate社のHDDの名にもなっているバラクーダ
手元の辞書には三種類のスペルがのっていたがどれもハヅレ
ただのカマスなのでちょっと調べればわかるものだがヅボラなものである
リリパット Lilypa Liliput
上のバラクーダ同様、つづりがわからないのが不自然に感じる
ベルザブル Bellzabble Beelzebul
有名な悪魔なはずだがむちゃくちゃである
これではあちらさんは何の事だかサッパリだろう
グレートオーラス Great Ohrus Great walrus?
本ページのドラクエW・グラートオーラスの項を参照のこと
「オーラス」とういカタカナだけを頼りにワケもわからずこしらえた結果だ。
いくら頭をひねっても「オーラス」からwalrusは出てこまい

以上のように実存(?)のモンスターや動物を例にとって見てみると、 国内版制作者の意図はDRAGON WORRIORの英訳者にまるでつたわっていない事がわかる。 英訳者はファンタジーに関する深い知識を有しておらず、 それだけでなく時に一般的な平凡な単語すらわきまえていないフシがある。

マッドルーパーやエレフローバーの「パ」と「バ」をとり違えるような 単純なミスからみても、 ゲーム上のモンスター名だけが頼りであり、 そこから発音を想像してスペルを構築している事がうかがえる。

つまりDRAGON WORRIORのモンスター名は訳者の独創であり、 そこから由来をさぐる事はできない。

という事は、Uのバピラスの項で述べた 「海外版DRAGON WORRIORのつづりは「vampirus」。(略)翼をひろげた姿が吸血鬼を思わせ、そして日本語版では「ン」をけずって語調をととのえた、そういう事だろうか。とにもかくにも手がかりだけはつかめたようである」 との推理は破棄せねばならなくなる。 同時にまたエレフローパーの項で断念した 「エレフは未詳。タコの口を鼻に見立てて象(elephant)のつもりかとも考えたが、つづりがなあ…」 という憶測は可能性がのこされた事になる。ふりだしにもどったわけだ。



放談 ドラゴンクエストのモンスター名について思うこと

初代ドラゴンクエストから最新作までプレイしつづけてきている筆者の、モンスター名に関するお気楽な話です

ドラクエのモンスター名は神話や伝説にもとづく既存のものよりも、ファンタジーの知識を要さない、見た目でしっくりくる「あだ名」のような創作のほうがそれらしい

初代では「ドラキー」「メーダ」「ドロル」といった(おそらく)オリジナルのものや「まほうつかい」「がいこつ」「しにがみのきし」などごく簡明な名称が多数をしめる。これこそがドラクエモンスター名の基本である事は誰しもみとめるだろう。堀井雄二自身が「ただ横文字を使ってかっこいい名前つけても、わかりにくい。それだったら「皆殺しの剣」みたいに(中略)なんだか強そうっていうイメージが湧く方がいいと思ってるんで。モンスターも同じです(集英社「DRAGONQUEST MONSTERS」)」とかたっている通りである

以前2ちゃんねるの「ドラクエのモンスターを考えよう」といった趣旨のBBSで「しのあり」という書込があった。無論おふざけだが、いかにもドラクエらしくて一緒に読んでいた友達とふきだしてしまった。やっぱりドラクエは「くびかりぞく」だの「あくまのめだま」だの「じごくのつかい」だの日本人が一目してイメイジのわく名前がいい。「くさったしたい」なんかははじめて見た時さすがに唖然としたけれど今となってはドラクエのモンスターを代表するような傑作だ。その後何度も登場している事からすると、きっと堀井自身のお気に入りなんだろう(上にひいた「DRAGONQUEST MONSTERS」でも、その旨かたられている)


ドラクエ2になってもわかりやすい名前という姿勢はかわらないのだが、いかにもテーブルトークや洋物のRPGに出てきそうなモンスターも混じるようになる。「バシリスク」や「オーク」「グール」などには見た時から違和感をおぼえた。こうした借物の名前は味気なさを感じる。逆にドラクエらしくて気に入っているのは「あくましんかん」。特撮番組の悪役幹部みたいな名前も堀井の得意とするところだ

僕がモンスター名の由来や元ネタに興味を持ったのは中学生の時、この2からで、英和辞典をたよりに不明な単語を調べてノートにかきとめていた。画面上の名前を元に当てずっぽうにひいていくので「パペット(puppet)」なんてそれまで聞いた事もなかったスペルにたどりつくには苦労した。その単語にずっと後になって大学の入試で再会しようとは。ドラクエをやっていたよかったと思った瞬間であった。残念ながらその一問で受かるほど甘くはなかったけれども

そんな調子でしらべていく内に「タホ」だの「バピラス」だの「バズズ」だの、辞典にのっていない単語にぶちあたる。これが気になって仕方がない。この悶々とした疑問が解決されぬまま二十数年後の今にいたっているわけだ。このコーナーの出発はまさにそこからだった


3になるとモンスターの数は一気にふえた。「おばけきのこ」や「あばれざる」「ようがんまじん」など明解なものも相変わらず多いが、わかりにくい名前もはいりこんできた。 「キラーアーマー」みたいな誰でもわかる英語ならともかく、「デスフラッター」や「ポイズントード」「テンタクルス」など、辞書をひかなければ普通の日本人にはまるで通じない単語がいくつかあった。英単語の勉強にはなるがドラクエらしいわかりやすさとはへだたりがある

「バルログ」「ミミック」「マーマン」など起源や出典のあるものも多くあった。あまたのRPGやファンタジー作品があふれているこんにちではどれも浸透している名だろうし、ネットで検索すれば瞬時に答えは見つかるが、当時においてこれらの名前からどういったモンスターかを頭に浮かべられる人間がどれくらいいただろう。2のバシリクスなどと同様、ドラクエにこうしたモンスター名をもってこられるとやはり唐突の感はまぬかれない。同じアリモノでも「クラーゴン」や「マントゴーア」のように多少もじったモノがあるのは少しでもオリジナルティを出したいという主張なのだろうか


ドラクエが世に出る少し前から、月刊Beepで早川守の「RPG幻想事典」という連載がはじまった。RPGというジャンルそのものが我が国でまだなじみのない頃で、毎回胸ときめかせながら読んでいた。上にあげたような「ドラクエらしくないモンスター」を僕はこの連載のおかげで知っていた

ある時、「ビデオゲームに登場するモンスター」を特集していた。その中でドルアーガの魔法使い「ドルイド」が紹介されていたのだが、後年発売されたドラクエ3の「ドルイド」を見た時、すぐにこの回の事を思い出した。ドラクエのグラフィックと、RPG幻想事典のイラスト(Nikov氏による)がそっくりだったからだ。はたしてこれは偶然なのだろうか。その頃はまだファンタジーに関する情報が稀少だっただけに、ドラクエのスタッフも貴重なこの連載を参考にしていて、ある程度の影響を受けたものではないかと僕は考えている


RPG幻想事典のドルイドのイラスト

他にもドラクエスタッフが参考にしたと思われるものにD&Dがある。「アルミラージ」「アカイライ」「ラゴンヌ」はどれもD&Dに登場するモンスターだそうで、しかも後ろの二つはD&D以外では名前を聞かぬごく特殊なモンスターだ。となるとD&Dがドラクエ3のアンチョコのひとつだった事は間違いないと見てよかろう。アカイライは最新作の9にも出てくるが、ビホルダーの時のような悶着は起きなかったのだろうか

もうひとつモンスターの背景を推察できるものに「バーナバス」「ギズモ」「マタンゴ」などテレビ番組や小説から拝借されてきたグループがある。どれもちかい年代である事から、これらは当時のスタッフの世代が年若い頃になじんだ作品だったのではないだろうか。「カンダタ」も小説からの登用だと思うが、これはまあ、世代は関係ない


3での僕のお気に入りは「じごくのはさみ」「さつじんき」「まおうのかげ」。 「じごくの」はこれ以降もよく使われる代表的なモンスターの形容詞。その下にくっついているのが「はさみ」というところが滑稽なのであるが、反面、魔物本体にではなくその武器に焦点をあてたところにスゴ味を感じもする。

「さつじんき」は8にも「ごろつき」なんて名前で出ていて、どちらも推敲の労が見えない恣意的な命名だ。そもそも字数制限でボツになった元の名前が「しけいしっこうにん」。いづれもモンスター名というよりは身分もしくは肩書ですな。もちろんこれはドラクエとして悪い事ではない

同じグラフィックなのでついでに触れておくと、「デスストーカー」の「ストーカー」を現在の卑屈なつけ回しと解してはならない。ドラクエ3が出た当時そんな意味で用いる事は我が国では一般的でなかった。そもそも「ストーカー」という単語を知る日本人自体ほとんどいなかったはずだ。単純に和訳して「死の追跡者(獲物にしのびよる者)」でいい。8にも同名で登場していて年の若いプレイヤーに勘違いされているかもしれないと思うので念のため

「まおうのかげ」はザキをとなえる闇の世界のモンスター。暗い画面に真っ赤な影がズラっとならぶのはロッテのクロキュラのように鮮烈で一度戦ったらわすれられない存在だ。つねに全滅の不安がつきまとう恐怖の代名詞。影であるのなら本体の「まおう」とは何者なのか。あれこれと想像させられるミステリアスなところがいい


4で目立つのは、ソロモン七十二柱からの登用。「サブナック」「ベレス」「バアラック」「アンドレアル」と判断がつくものだけで四体ある

また、となえる呪文を名前に冠するものが「メダパニバッタ」「メラゴースト」「マヒャドフライ」「スライムベホマズン」などいくつかある。初遭遇でも特徴がわかってありがたいが、「マヒャドフライ」なんぞが五匹くらいであらわれるとその名前だけで逃げ出したくなる。たとえるなら女神転生で、カンデオンのサキュバスに八匹くらいの団体で出くわしたような心もちだ。 「スライムベホマズン」は、はじめ見た時になぜ「ベホマズンスライム」でないのだろうと不思議に思ったが、この方がずっしりした容貌と合っていてうまい

恒例の「じごく」シリーズでは「じごくのざりがに」がいる。3の「じごくのはさみ」と同じで滑稽だが、こっちは滑稽でしかない。ザリガニに地獄も極楽もなかろうに。上でふれた「しのあり」はまさにこの感覚。「しのさそり」ならばサソリ自体が脅威なのでおそろしさが増しもしようが、「しのにわとり」とか「しのもぐら」では笑ってしまうもの。いや、対象そのものが脅威であっても「しのくま」ではやっぱりおかしいから語感も重要といえる。同様に「じごくのあひる」や「じごくのこおろぎ」なんてのが現れたら面食らうだろう。「じごくのカニ」を避諱して「じごくのはさみ」とした感覚の持主・堀井雄二が、「じごくのざりがに」をそのまま出したという事は、もしかしたらドラクエをセルフパロディしたのではないかとうがってみたくなる

4でのお気に入りは、なんと言っても「しびれだんびら」。よくもまあこんな語呂のよい、印象のつよい名前を思いつくものだ。「うずしおキング」もドラクエらしいユーモアがあっていい。「おおめだま」とか「とんがりあたま」とか、適当につけたあだ名っぽいのも忘れがたい。「しにがみきぞく」は特撮悪役風のカッコイイ名前。僕の初回プレイでは一度も遭遇せずにクリアしてしまったので、後からその存在を聞いて驚いた幻のモンスターだった

それらすべてをおさえて4の最高峰と思うのは「おにこんぼう」!よっぽど冴えていた時か、そうでなければ何日も徹夜して通常の思考ができない状態でなければとても浮かびそうにないドラクエ的会心の佳名である



◆参考◆

早川守「RPG幻想事典」 ソフトバンク刊1988年版
文中の引用は無記名の物はすべてこの本から

楠見千鶴子「ビジュアル版ギリシア神話物語」 講談社2001年版
松島道也「図説 ギリシア神話【神々の世界】篇」 河出書房新社2001年版
Miranda Jane Green(市川裕見子・訳)「ケルトの神話」 丸善ブックス1997年版
Raymond Ian Page(井上健・訳)「北欧の神話」 丸善ブックス1994年版
檀原照和「ヴードゥー大全 アフロ民族の世界」 夏目書房2006年版
Dante Alighieri(平川祐弘・訳)「神曲 新装版」 河出書房新社1992年版
John Ronner(鏡リュウジ・宇佐 和通・共訳)「天使の事典―バビロニアから現代まで」 柏書房1995年版

柴田翔「「ファウスト第T部」を読む」「「ファウスト第U部」を読む」 白水社1997年版
メフィストフェレスのために読んでいたら偶然bockがヤギだと知る事ができた

岩崎民平監修「現代英和辞典」 研究社1979年版

「DRAGON QUEST MONSTERS」 集英社1996年版
そのほかエニックスの公式ガイドブック

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海外版ドラゴンクエスト「DragonWorrior」のモンスター名やアイテム名などが掲載されています。
大変参考になりました
DQ大辞典を作ろうぜ!! 第二版
ファンなら思わずうなづいてしまう、プレイヤー達の実感がこもったたのしいページ。
あのモンスターってどんなのだったっけ、っていうのが即座にわかるので重宝しています
THEOI GREEK MYTHOLOGY
すばー!すばー!すばー!と、田中星児ばりに称讃したくなるすばらしいサイト。
美術品に見られるギリシャ神話の登場人物たちの姿が山ほど紹介されています

そしてwikipediaへ…

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